平成12年度終了
宇宙環境利用に関
する公募地上研究
成果報告書

研究区分
フェーズ IA
研究分野
生物科学分野
研究テーマ名
宇宙環境における極限環境微生物の分布の研究
代表研究者
山岸 明彦
所属機関
東京薬科大学
研究期間
平成10〜12年度
English 


 
宇宙環境における極限環境微生物の分布の研究
 
山岸明彦、板橋志保、小林永、横堀伸一、本野千恵
東京薬科大学 192-0392東京都八王子市堀之内1432-1
 
研究成果概要
研究の目的・意義
 宇宙環境では宇宙線、紫外線、高温、低温、高真空のなかで、特殊な微生物分布が予想される。そこで、地上の空気、高高度の空気、宇宙船内、宇宙船外での微生物相を比較することから、宇宙環境に於ける微生物相の特徴を検討することを目的とした。
 ミール船内から採集した環境標品、飛行機を用いて採集した空気中の塵埃、地上での塵埃等から、好熱菌、紫外線耐性菌等の極限環境微生物を選択的に培養単離する。それらの、16SrRNAの塩基配列を決定して分類学上の位置を定めるなど細菌学的形状を調べた。
 宇宙環境での長期滞在を考えた場合、宇宙環境下での微生物相の特徴を検討することが不可欠である。科学的なもう一つの重要な意義として、微生物の高高度あるいは宇宙空間を経由した極限微生物伝播の可能性を実験的に検証することにある。

研究方法
 機体外より大気を吸引し、メンブランフィルターで大気中の塵埃を濾過するための装置(ADS-1)を設計製作した。その実績をもとに改良点した装置(ADS-2)を設計製作した。ADS-1およびADS-2にメンブランフィルターを装着し空気試料を採取した.メンブランフィルターは,平板培地上で33から37℃で培養し,コロニーを2〜7日後に計数した.菌体から抽出したDNAをもとに,16S rRNA遺伝子のPCRを行い、PCR産物をクローニングした.塩基配列を決定データベースと比較した.

研究の成果
 Mir船内から以前単離した比較的紫外線耐性の高い菌株について耐性を測定したところ、真正細菌に属する菌株は大腸菌や枯草菌の倍程度の紫外線耐性を示した。宇宙船内は地表に比べれば比較的高い宇宙線量であるものの、それがとりわけ紫外線耐性菌を選択するほどではないことが推定された。
 航空機を用いた採集標品からは、1立方メートルあたり約1個の細菌が検出された。その菌の16SrRNA遺伝子配列から、単離されたうちの2株はDeinocossus 属の新種と思われる。またこれら2株の紫外線耐性を検討したところ、これまでに知られている中でもっとも紫外線耐性をもつDeinococcus radiodurance よりもさらに高い紫外線耐性を示した。これまでこの菌が放射線耐性と同時に高い乾燥耐性を示すことから、放射線耐性は乾燥耐性に派生して持つ性質かもしれないとされてきた。しかし、この結果はDeinococcus属およびその他の紫外線耐性・放射線耐性の微生物は、分布の有利さの故に選択され進化してきたのかもしれないと示唆している。
 好熱菌のなかでも80℃以上で生育する高度好熱菌、超好熱菌は地上でのサンプリングでも、飛行機を用いたサンプリングでも検出されなかった。そこで、三宅島周辺でのサンプリングを行ったが、検出を試みた菌種は検出されなかった。三宅島はすでに定常的な状態に入っており、こうした状態では噴煙は上がっていても、菌の撒布にはあまり寄与していないのかもしれない。

宇宙実験への発展性 
 本実験計画により、高度12 kmまでは紫外線耐性菌が約1CFU/kl(地表体積)の密度で存在していることが明らかとなった。今後徐々に高度を上げて、存在する菌密度を明らかにすることにより、宇宙空間において、どの程度の菌密度で紫外線耐性菌が存在するかの予測がたち、それに基づいた宇宙実験計画の立案が可能となるはずである。ただし、高度の上昇に伴う気圧の低下にしたがって、塵埃採集法は変更する必要が出てくる。
 以前より、地球上の生命の起源の一つの可能性として地球外から生命体が移動してきたという仮説が提案されている。もし、宇宙ステーションの高度に菌体が生存しているならば、少なくとも惑星間での生命の移動の可能性は考えなければならない。今後進められる惑星での生命探査においては、他の惑星の生命体が、地球型の生命体である可能性も考えた探査計画を立てる必要がある。

外部発表リスト
講演発表
  1. 板橋志保、山岸明彦、大気圏からの微生物の単離
    日本宇宙生物科学会14回大会、2000年10月19-20日(福島)
  2. 板橋志保、山岸明彦、大気圏における極限環境微生物の単離
    第16 回日本微生物生態学会、2000年11月12-15日(茨城)
  3. 山岸明彦、板橋志保、成層圏での極限環境微生物の分布
    平成12年度、大気球シンポジウム、2000年12月14日(東京)
発表論文
  1. Miyazaki, J., Nakaya, S., Suzuki, T., Tamakoshi, M., Oshima, T. and Yamagishi, A.
    Ancestral residues stabilizing 3-isopropylmalate dehydrogenase of an extreme thermophile: Experimental evidence supporting the thermophilic common ancestor hypothesis J. Biochem. (2001) in press
解説総説
  1. 山岸明彦、好熱菌と宇宙生命科学
    宇宙生物科学、 14, 332-340 (2000)